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高松高等裁判所 昭和42年(ネ)48号 判決 1969年9月30日

控訴人(第一審原告竹崎茂久一相続人)竹崎茂理雄 外三名

訴訟代理人 島崎鋭次郎

被控訴人 安岡隆吉

訴訟代理人 溝上脩一

主文

本件控訴を却下する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は、控訴人竹崎茂理雄、同竹崎琴富に対してそれぞれ金一〇万八、四八六円、同信清肆子、同竹崎則孝に対してそれぞれ金五万四、二四三円を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする」旨の判決を求め、被控訴代理人は、本案前の申立として、「本件受継申立が不相当である旨の適当なる裁判を求める」と述べ、本案の申立として、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、左に付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、それを引用する。

控訴代理人は、次のとおり述べた。

「(一) 一審原告竹崎茂久一は昭和四一年六月三日死亡し、その相続人は控訴人らで、相続分は、長男である控訴人竹崎茂理雄、妻である控訴人竹崎琴富がれぞれ三分の一、孫である控訴人信清肆子、同竹崎則孝がそれぞれ六分の一である。よつて控訴人らは、受継の申立をすると共に、本件控訴に及んだものである。

(二) 本件の訴訟受継申立は適法である。

現在の判例によれば、頼母子講は民事訴訟法第四六条により当事者能力があるけれども、総代が個人名義を以て訴訟をすることも妨げない、というのである。本件の一審原告竹崎茂久一は、自己の名を以て訴訟を提起したのであり、その肩書に頼母子講の名を表示していない。従つて本件の当事者は頼母子講ではなくして竹崎茂久一であり、その相続人による受継は適法である。

かりに右主張が理由がないとしても、本件講規約によると、総代を竹崎茂久一と定め、その任期は本講終了までとなつていて、他の者を交替させることは予想していないし、総代改任の方法も別段規定していないのである。そればかりではなく、本訴を提起した竹崎茂久一と他の講員との内部関係は委任であつて、右茂久一の死亡により右委任は終了したと考えられるけれども、全講員が債権者側(未取当り人側)と債務者側(取当り人側)に分れて抗争している現在においては、全講員の一致を以て後任総代を選任することは不可能であり、且つ法定期間のある訴訟行為については、早急に受任事務を処理する必要があるので、やむを得ず右茂久一の相続人において訴訟を受継したものであつて、本件の受継申立は、民法第六五四条によつて有効である。

なお、本件講会における落札者は掛戻債務の担保のため抵当権を設定することになつているが、その抵当権の登記上の債権者名義も竹崎茂久一になつており、登記関係の処理、抵当権の実行行為も相続人においてなさなければならないことになつているのである。

(三) 本案について。

追加規約の成立過程は、第一審原告が原審で主張したとおりであるが、尚付言すれば、被控訴人は追加規約が記入された講帳(甲第一号証)を、十数年間常時役員(監査人)として保管使用していたのであり、且つ右追加規約第六項の「処分費用(取立訴訟費用の意)トシテ昭和十三年四月落札者岡本繁喜氏ヨリ金参円宛ヲ積立テル事トシ監査人安岡隆吉氏預ル」の規定に基づき、その後の講会毎に落札者から三円を徴収し、現在も右金員を保管しているのであつて、右事実は本件追加規約が有効に成立した証左である。

かりに、追加規約としての成立が認められないとしても、右文言は昭和一三年四月から講規約の一部として記帳されており、その後の落札者はいずれも右条項の存在を認めてこれを履行し、且つ被控訴人も右条項どおりの手続を行なつて来たものであるから、講総代である竹崎茂久一と各落札者との間で、右条項どおりの延滞金を支払うという個々の契約が成立したものである。よつて落札者である被控訴人に対し、右契約上の義務として、延滞金支払を求める。

(四) かりに、以上の主張が認められないとしても、被控訴人は、年五分の割合による法定遅延損害金一万一、七九四円を支払う義務を免れない。右金額の算出根拠は別紙計算書のとおりである。」

被控訴代理人は、次のとおり述べた。

「(一) 本件受継申立は不適法である。第一審原告竹崎茂久一は、訴外田中恵吉を親とする頼母子講の講規約に基づき講員より選挙せられて総代となり、本件講金請求訴訟を提起したものである。本件各控訴人らが右第一審原告の相続人であるとしても、本訴を受継すべき何らの権利も権限も有しない。

(二) 本案について。

控訴人らの主張するように、被控訴人において十数年間常時甲第一号証の講帳を保管使用した事実はない。

但し、被控訴人において、講員たる亡田中福吉より金二四円位を預り、その後他の者よりも金六六円位を預り、これを竹崎茂久一に渡そうとして拒まれ、引続き保管中であることは認めるが、これを以て追加規約成立を認める根拠とはならない。

控訴人らのその余の新たな主張は、すべてこれを争う。」

証拠<省略>

理由

まず、訴訟承継の適否について判断する。

一件記録によると、次のとおりの事実関係が認められる。

一審原告竹崎茂久一は、昭和三四年一二月一五日訴外弁護士古味亀を訴訟代理人に選任し、高知地方裁判所安芸支部に講金請求の訴を提起し、訴外田中恵吉を親とする頼母子講の総代として、講員たる一審被告安岡隆吉に対し、昭和一三年四月一三日の講会座で成立した追加規約に基づくとして、一審被告が掛戻米および利米の掛戻を怠つたことによる遅延損害金の支払を求めた(請求の趣旨および原因は最終的には原判決事実のとおり)。事件は間もなく同地方裁判所本庁に回付されて審理されたが、弁護士古味亀は昭和三七年一一月一七日死亡し(この点は当裁判所に顕著である)、同年一二月四日弁護士小林盛義が事件を受任して(民事訴訟法第八一条第二項に規定する権限をも与えられた)訴訟を遂行した。一審原告竹崎茂久一は昭和四一年六月三日死亡したが、訴訟代理人があつたため訴訟は中断せず、昭和四二年一月一六日原告の請求棄却の判決が言渡され、判決正本は同月一八日原告訴訟代理人小林盛義および被告訴訟代理人溝上脩一にそれぞれ送達された。亡竹崎茂久一の相続人は、妻の竹崎琴富、長男の竹崎茂理雄、孫の信清肆子、竹崎則孝(代襲相続)の四名であつたが、同人らは同月三〇日、亡竹崎茂久一の訴訟承継人であるとして、前記判決に対し控訴を申立てた。

以上のとおり認めることができる。

考えるに、頼母子講に属する権利は総代の個人財産とは異なり、総代の死亡により当然にその相続人に承継される性質の権利ではなく、総代が講のために訴訟を遂行する関係は一種の訴訟信託であるから、総代が死亡した場合には、講規約に従いあらたに総代を選任し、その者をして講の権利を行使させるべきものであり、訴訟上の当事者たる地位も、新総代において受継すべく、旧総代の相続人において承継すべきものではないと解する。もつとも、講の権利が旧総代の個人名義で成立している場合、その相続人に権利を行使させるのが便宜であることもあるが、反面弊害も生じ得ないではなく、規約その他で格別の合意が認められない限り、相続人は講の権利を行使できず、訴訟上の当事者たる地位も承継しないものと解するのが相当である。

本件についてこれをみるに、講総代の相続人において講の権利を行使することを認めた規約は全く存在しないところであり、ほかにそのような取扱を是認する合意のあることも認められないから、控訴人らは本件講の債権を行使し得べき限りではないといわなければならない。

控訴人らは、頼母子講は民事訴訟法第四六条により当事者能力があるけれども、総代が個人名義を以て訴訟をすることも妨げないところであつて、本件は総代が個人名義を以て訴を提起した場合であるから、相続人による受継は適法である旨主張するけれども、民事訴訟法第四六条によつて頼母子講自体が原告となる場合は、総代死亡は講の代表者の死亡として取扱えば足りる筈であつて、前の説示はまさに総代が個人名義を以て訴を提起した場合についてであるのである。また控訴人らは、総代を交替させることは本件講規約の予想していないところであり、総代改任の方法について講規約に規定がない旨主張し、成立に争のない甲第一号証(講規約)によれば、「第一四条講総代ハ本講終了マデトシ監査人ハ満期再選ヲ妨ゲズ」「第一六条本講管理人ヲ選挙シ左記五名当選就任ス総代竹崎茂久一監査人下村春治(以下略)」との規定があること、総代改任の方法について別段の規定がないことが認められるが、当事者の合理的意思の解釈上、講規約に直接の規定がなくとも、当初の選任方法と同一の方法、即ち選挙により後任総代を選任し得るものと解せられ、前記のような講規約の定めがあるからといつて総代の相続人が講債権を行使できるものとは認められない。また控訴人らは、現在全講員が未取当り人側と取当り人側とに分れて抗争しているから後任総代の選任は不可能であり、法定期間の定めのある訴訟行為は早急にこれをなす必要があるので、本件の控訴は民法第六五四条によつて有効である旨主張するが、所論のような事情がある場合は、総代の選任はそのいわゆる未取当り人側のみの選挙によつてこれをなし得るものである(最高裁判所第二小法廷昭和四二年三月三一日判決参照)し、判決に対する控訴はなる程控訴期間の定めがあつて緊急を要するが如くであるけれども、総代が死亡し委任関係が終了したのは判決言渡よりも四年以上前であるばかりでなく、一審原告訴訟代理人において控訴をする権限を有していたわけであるから、本件の控訴を委任終了の際の急迫な事情に基づく相続人の応急処分であると認めることもできない。

叙上説示により控訴人らの本件受継の申立は理由がない。

そうだとすると、本件の控訴は、控訴の適格のないものによる控訴として不適法であり、その余の点について触れるまでもなく却下を免れない。よつて、控訴費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 橘盛行 裁判官 今中道信 裁判官 藤原弘道)

計算書

I 昭和25年12月会の分

1.石586×5,420円 = 8,596円……掛戻元金

昭和25.12.26~昭和34.10.31 = 8年304/365……計算期間

8,596円×0.05×8年304/365 = 3,796円

II 昭和26年4月会の分

1.石586×5,420円 = 8,596円

昭和26.4.26~昭和34.10.31 = 8年189/365

8,596円×0.05×8年189/365 = 3,660円

III  昭和26年12月会の分

1.石586×6,986円 = 11,079円

昭和26.12.26~昭和34.10.31 = 7年304/365

11,079円×0.05×7年304/365 = 4,338円

合計 3,796円+3,660円+4,338円 = 11,794円

以上

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